「今、何時でしょう?」
「えっ? えーっと……八時四八分?」
「よくできましたぁ。あと二分で一時間目が始まります。そして一時間目は算数です。も
う写す時間無いよね?」
「ぐえっ! 図ったなぁ壬ぃ羽ぅ?」
「えへへ」
「えへへ、じゃなーい!」
そう叫ぶと後ろから抱きついた体勢のまま脇腹を擽ってきました。
「あははは……ちょっ、あはは、やめて……ひひひ、もう……お返しだ」
「あはははは……壬羽っ……うひひひ……やめなさ、あひひひひ……ごめっ、ふひひひひ」
そんなふうにお互い擽りあってると教室のドアが開く音がして教室にいる私と智里ちゃ
ん以外のみんなが静かになりました。
「ふふふ……智里ちゃ、はははは……せんせッ……あはははは……来たッ」
懸命に智里ちゃんに伝えようと頑張りますがどうやら聞こえていないようです。
――バシッ、バスッ
「「痛ッ」」
頭に衝撃を感じて私と智里ちゃんが同時に叫んで擽り合いが止まりました。智里ちゃん
と顔を見合わせた後顔を上げると担任の白谷先生が教科書と先生用の大きな三角定規を持
って立っていました。頭に仁王像が浮かんできたのは内緒です。
「崎守、芦風、もう授業時間なの分かってるんだよな?」
「分かってませんでした」
何を血迷ったのか智里ちゃんが即答してしまいました。
――ガツッ
智里ちゃんが頭を教科書の背表紙で叩かれる音が響き渡りました。私は顔を背けて溜息
を吐きました。
「叩いたー。体罰だー、体罰だー」
「もう止めなよ智里ちゃん。みっともないよ」
きっぱり言うとさすがに智里ちゃんも黙りました。
「よーし、お前ら二人には罰として宿題の答えを黒板に書け。崎守は一番と二番、芦風は
三番と四番だ」
「………………」
隣で俯き加減で黙り込んだ智里ちゃんを見て、あーあ。と心の中で呟きます。心なしか
智里ちゃんに呪われている気がしますが気のせいだと思いたいです。
「さーきーもーりー? まさか忘れたとは……言わないよな?」
智里ちゃんが恨みと哀願のこもった視線を向けてきていますが気付かないふりを決めこ
みます。
落ちていたノートを拾って上履をぱたぱたと鳴らしながら黒板に白いチョークで答えを
書き始めます。
黒板に答えを書き終わって振り向いた時、智里ちゃんと目が合うといよいよ怨念の篭も
った視線を送ってきました。
マンガなら周りに光が出るような無邪気な笑みを浮かべながら智里ちゃんとすれ違って、
机にぱたぱたと音を立てて戻ってもまだ智里ちゃんへの先生のお説教は続いていました。
結局、智里ちゃんへのお説教は四十五分ある授業を二十分に縮めるまで続きました。